パプリカ
筒井康隆御大原作 今敏(こんさとし)監督のアニメ映画「パプリカ」を見て来ました。結論:とってもいい出来です。筒井原作は1993年の断筆宣言の直前に発刊された小説です。筒井作品は若干のエッセイを除き多分ほとんど全部読んでいるはずですが(ジャスピアニストの山下洋輔に言わせれば、新聞の寄稿一片たりとも疎かにせず全部読んでいて初めてツツイストを名乗れるそうですが!)、個人的には筒井作品のなかではベストと思っています。初期のスラップスティックも嫌いではありませんが、若いころは文章が雑なことが気になります。断筆が近づくころですとメタフィクションの最高傑作「虚構船団」が登場しますが、メタフィクションはやはりメタであって、文芸作品もエンタメのフィールドで捉らえる私にはややつらいものがあります。その点「パプリカ」は女性誌に連載されたこともあってか、トラディショナルな神話構造的作品なので安心して楽しめるのです。
さてしかし内容は当時としては革新的であったろう(つまり21世紀の現在では設定自体は目新しくない)、メカによるサイコセラピーであり、夢が実体化するという、筒井御大でなければ陳腐になってしまう情景を精緻かつ狂気の筆で描いているからこそ芸術作品として成り立っているものを、アニメーションで具体化するというのはかなり危険性が伴うことだと思っていました。しかしその点は今監督×マッドハウスというチームは充分に課題をクリアし、小説の世界感を保ちつつ別種の作品として屹立させることに成功しています。恐るべしジャパニメーションの底力!映画版「アキラ」のクオリティをもっと現代的に変容させたような趣です。また音楽もややうるさいものの特定の色合いが無く映画音楽としてアニメの世界観とインテグレートされていました。元P-モデルの平沢進さんです。キャスティングの勝利ですな。「アキラ」は芸能山城組の音楽をBGMに用いたことで、土俗性と近未来カタストロフがミスマッチになってしまい失敗だったと思っています。
原作の面白さのひとつは純粋SFの楽しさと別に、夢と夢の中の理想の女性、そしてオタクがサブキャラというシチュエーションから想像されるように、淫夢または一種のマスターベーション的愉楽を含有していることがあげられます。もちろんそれは読者が男であるからこそ、に限定されます。公開していた映画館のお客もその手のオタクおやじがほとんどでした。 先に原作は女性誌に連載されたと書きましたが、単行本で読んだ私はそのことを意識していませんでした。ですの映画で終盤、千葉敦子の淫夢内レイプヌード、最後にパプリカの昇天ヌードが見られるものの、原作がそもそもはそういうオヤジ相手でなく、女性を対象にしていたこともあってか、全体的には大変清楚な印象でまとめてありました。千葉敦子は戯画的なくらいイキオクレ風エリート研究者然として描かれているし(別に香山リカさんを指している訳ではない。原作を読んでいる時点では私は千葉麗子(古ッ!)をイメージしていた)、パプリカも絶世の美女ではなく、そばかすのあるようなキュートな風情で、つまりエビちゃんみたいな男目線を常に意識している「女の子力」オンリーで生きる寄生タイプではなく、自立して飯食っているOLさんがあこがれるタイプです。あるいは異様にバストの大きいぽっちゃり系=アニメ世界で童貞君が憧れる美女ではなく、あくまでスリムな雑誌のスチールモデル系とも言えるでしょうか。
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コメント
どうも。筒井作品のなかではもっとも娯楽性に徹し、伝統的神話構造を保持しやあ作品ですから、映画化はしやすかったかもしれませんね。大好きな作品ですが、なんでこんなある意味コンサバなエンタメを書いたんだろう?というのが当時の疑問でしたが、ゆずこせうさんの話を伺うとポストモダン思想に正面から向かい合って格闘していた時期、さらに言葉狩り問題との戦いの時期もかさなり、自分自身の精神安定を図るため、本人としてもメタフィクションのような実験ではなく、トラディショナルなポジションの作品を書いてみたかったのかも知れませんね。
投稿 | 2007年1月13日 (土) 14時02分
この作品の原作に限らず、たぶん、筒井先生のキャッチだと思うのですが、「パプリカ」も原作発表時には「映像化不能」だと言われていました。
でも、当時単行本を読んだ自分は、筒井作品中でも屈指の映像可能作品だと見受けました。物語世界観、キャラ、ガジェット、いずれも良い娯楽作品に必須の要素で、その枠の中で自分の当時興味のあった薀蓄をイメージとして描き出しています。
丁度あの頃は作者が文芸批評から現代思想、そして心理学にはまって行った頃、その過程が作品になったのが、なんと筒井作品初の岩波からの出版「文学部唯野教授」です。
「パプリカ」は良い意味で、その当時の作者の研究が昇華した小説と思います。
ただ、文体は、はっきり言えば確信犯的に崩して書いていますので、これは好き嫌いが昔から分かれますね。
女性誌初出が意外がられましたが、実は私達より下の年代の女の子達には結構コアな愛読者が多いです。若手女流のインタビューでも好きな作家の上位に入るようですし。
投稿 ゆずこせう | 2007年1月13日 (土) 10時31分