城塞
この赤土の丘陵の上に建つ城で過ごした日々は夢だったのか
夜警が誰何し、それに答える者たちの相貌の記憶は曖昧だ
脂の燃える嫌な匂いを放つ篝火に照らされて
崩れかけた煉瓦の壁に横たわる我が身からは
既に若い頃の力は失われている
明日の朝を迎えれば墜ちる定めの城と王国に未練は無い
己の流離の人生にも省みるべき何事も無い
惜しむらくはこの世に我が身の生きた証を何も残せなかった
人生は危ういバランスの上の細い一本の糸
どこに有るのか、それを探して彷徨う一生の最後に
探し物は結局自分の中に有ること悟った時は
落城を前にした最後の夜だった
恐らくは王であろうと娼婦であろうと
城塞の内に住まう物はなべて
結局は己が最後に瞬間にしか
その事実に気がつかないだろうが
自らもまたその陳腐な定めにとらわれていたことに
苦い笑みを浮かべながら
刃の毀れた剣に最後の油をそそぐ
人生はまばたきのごとく脆いもの
現れた時は知らず、消えるときのみ知覚できるもの
そろそろと白み始めた東の空に
苦い後悔の念だけが拡がっていく
終わりの始まり
赤い獣脂の篝火だけが
私の横顔を照らしている
城塞のひとびとは消え行く定め
篝火は朝の光に消え行くもの
終わりの始まり
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